teamクースー「分署物語」2019
消防士たちを描いた素晴らしい劇を観た。まだ上演中なので物語の中身まで書くわけにはいかないが、Teamクースーによる第6回公演「分署物語」だ。
脚本演出を手がけた古屋治男氏はもともと消防士だったという。だからリアルな男の職場のあるあるエピソードが満載である。また迫真の場面には思わず息を呑む。圧倒的なリアリティだ。見応え十分、人間と人の世をどこまでも愛おしむ切ないまでの物語。掛け値無しのいい芝居だった。
俳優陣一人一人がくっきりとした味のある個性で見事に「生きる消防士」とその周囲の人々を描き出す。すっかりファンになった。そして存分に存在感を放っていたのは杉本凌士さん。劇団メンソウルの座長にして脚本演出家でもある。彼から年末に客演で消防士を演じると聞いたのは、同じくメンソウルの劇団員山田 諭さんが主宰するSatoPacino Companyの舞台「瑠璃色ラプソディ」を観たときだ。流石に年末は観劇も難しかろうと思っていた。しかしたまたま目にした稽古風景の写真に思わず目を見張った。あまりに杉本さんの姿がリアルなのだ。制帽のかぶり具合、整列の姿勢、何より漂うその気配がまるで消防隊そのものではないか。これはなんとしても見なければと思った。
長い付き合いとはまだ言えないが、様々な役を演じる杉本さんをこれまでに見た。やさぐれた刑事、引退間近のボクサー、受刑歴ある工場主に戦国武将。はたまた「オカマホスト」まで目撃した。その存在感は抜群だ。中でも私が忘れられないのは、劇「but end」で彼が演じた死刑囚だ。冤罪を疑う弁護士に対して、彼は自ら極刑を望む。そこに隠された深淵な背景に私は打ちのめされた。彼自身による脚本、演出もこの上なく素晴らしいのだが、彼の芝居が凄まじいのだ。何も大げさに振る舞うことなど何もない。ただ存在が深奥から鬼気迫っているのだ。ことさら思わせぶりだったり、過剰だったりする演技に映画やテレビで慣らされているが、それらを遥かに蹴散らして凌駕する深さなのである。
喜びと悲しみ、怒りと微笑み、それらを人は同時に抱くものである。清らかさと汚濁、慈しみと憎悪、そして脆さとしたたかさ。それらを同時に抱える姿を彼は見せてくれる。深い。限りなく深い。混ざり合わない絵の具をかき混ぜたように、彼は光と闇の両方を抱え込み、自由に行き来する。なんという魅力的な佇まいであることか。そして彼はそういう矛盾と否応なさを抱えざる得ない人間への限りない愛しさを観客に伝えるのである。
素晴らしい。
我と我が身を人の目に晒して演じる俳優という仕事。神業と思う。まさに自分の肉体と精神の全部で人びとの心を動かす。凄い。私は言葉を操るだけだ。彼らは粛々と自分自身を人々に差し出している。その力はやはり論理を超えている。
teamクースーもこれから応援して行きたいし、もちろん来年もまたメンソウルの舞台を見るつもりだ。そしていつかまた私が書いた物語を彼らに演じてもらうのがひとつの目標でもある。着々と腕を上げている若手と安定のベテラン陣のその舞台をこれからもずっと応援したい。文化は負けない。その底力を信ずる。
teamクースー「分署物語」
12/24-29 @新宿シアターブラッツ