シャルル・ボワイエ-「うたかたの恋」(1936)
ヘップバーンのものが有名なようだが、これは1936年版。
ストーリーはシンプルと感じるが、これは悲恋もののスタンダードを形作ったものだからだろう。原題のマイヤーリンクはそもそも元となった「マイヤーリンク事件」から由来する。舞台は栄華を誇ったウィーンハプスブルグ家。既婚の皇太子と伯爵令嬢の恋愛心中物語。反体制勢力と皇太子が通じていたための謀殺がその真相という説も根強い。19世紀末だから一次大戦前、皇帝貴族と軍隊の関係が興味深い。騎士の流れをくむ英雄的な軍人像が現れている。当時皇太子は30歳、相手の娘は16歳だ。皇太子が教皇から離婚を拒絶され死に傾斜するのはどうにか描かれた人格像から了解できる。令嬢が同調して死になびいて行くのは古い乙女趣味として描きたかったのだと思うが、一途な性愛的衝動に駆られたという方が了解しやすい。今はめったにそういう歌はないが、昔は15,16歳のアイドル歌手が「駆け落ち」(死語?)や心中の歌を切羽詰まった声で歌っていたのだ。「木枯らしの二人」「湖の決心」。隔世の観。
しかし、貴婦人たちの大変な露出のドレスや身体を密着させる舞踏会のダンスはやはり史的文化の違いをつくづく感じる。
主役のシャルルボワイエは「ガス燈」の悪役の方が似合う。どうにも二枚目とは見えないのだが。
そして戦前日本では上映禁止となっているがその理由は「皇室のスキャンダル」を描いたものだからとのこと。そう言えばそうだけど、なんだかなあ。