劇団男魂(メンソウル)「GRAPEFRUIT MOON」2011
劇団男魂(メンソウル)の第11回本公演「GRAPEFRUIT MOON」をDVDで観せていただいた。素晴らしかった。
劇のあれこれ書きたいのだが、あまり内容に触れるとネタバレになってしまう。しかし、よい作品はあらかじめあらすじを知っていても大いに楽しめるものだ。むしろ細かな内容、一つ一つの台詞の言い回しもわかっておればわかっているほどに作品を味わえるものだと思っている。たとえば能などその台詞の一言一句を歌詞カードかたわらに音楽を聴くように楽しむものだ。一度読んだらもう二度と手に取ることはない作品はそれだけのものだってこと。何度でも味わいたくなり、何度でも新しく味わえる広がり深みのある作品が名作だ。だからあらかじめ筋を理解していても、それを超え与えるものでありたい。また音楽であれば、細かなさらにアクシデントさえ魅力と感じる。私は昔から音楽はライブ音源をとても好んだ。例えばジャニスジョプリンがマイクから離れたところで笑っている声や咳払いが聞こえると無性に心わくわくした。ビョークの荒い息や唾が飛びそうな叫び出しであるとか、ジョンの声が高音でかすれてしまうとか。劇はスタジオでテイク重ねてつなぎ合わせる編集作品でなくライブだ。劇公演の収録DVDはまさにLIVEビデオなのだ。
とは言え、勝手にネタバレしてよいことにはならない。つらいところだ。とにかく面白かった。Episode刑務所とあるように、その舞台は刑務所の舎房と、刑務所に隣接する民宿のロビーだ。交互に入れ替わりつつ様々な人間模様が描かれる。リアリズムだ。リアリズムはそのままでコメディでもある。男魂の真骨頂。得てして世間に流布されてある誤った先入観、イメージで語られがちな世界だが、さすがである。取材力に舌を巻く。一言一言が「正しい」。
2011年の上演だという。つくづく思う。「もっと前から知っておれば」と。そしてまたさらにつくづくづくしで思うのだ。「もったいない」。こんないい舞台を目撃したのが、東京の劇場に一週間集った人々だけであったとは!
舞台人にとってはその場の演者と観客とで作り出す一回限りの共同体験ということだろう。その場に足運ぶものだけが体験できる特権こそがその魅力でもあると。しかし、私などそんな馬鹿なと言いたくなる。明かりは高くかざせ、と聖書にもあるではないか。大げさか。
脚本演出はもちろん杉本凌士氏である。そのテイストは私にとってドストライクだ。人間への眼差しが深い。「愛すべきダメ男ワールド」が劇団のキャッチだが、それは人の持つ弱さ愚かさ狡さに対する優しさでありつつ、決して憐憫や卑屈同情、正当化に逃げ込まず、すっぱりあっけらかんと突き放している世界だ。潔い。こうでなくっちゃ、と思う。作家が自己憐憫や自己正当化を漏らすほど醜悪なものはない。黙って描くだけだ。それが愛ってもんだ。
実はあと、二本DVDがある。ものすごく楽しみだ。何が楽しみかって、杉本作品に触れると創作の意欲が無性に刺激されるからだ。一粒で二度おいしいとはこのこと。なんのこっちゃ。