「おいしい生活」「猪鹿お蝶」「十九歳の地図」「どっこい生きてる」「聖母観音大菩薩」
「おいしい生活」
主人公はウッディアレン演ずる自称天才でその実間抜けな元詐欺師。妻は元ストリッパ。阿呆なムショ仲間達とのやりとりが愉快。
良質な寓話ファンタジー。
物語の顛末は陳腐と言えば陳腐。なのに観た後、まさにおいしいお菓子を食べた手頃な爽快感。
いい映画観た。
「不良姐御伝 猪鹿お蝶」
(池玲子、Cリンドバーグ)
当時、鮮烈な印象を受けた映画。
改めて観ても演出に度肝抜かれる。
悪徳政治家に殺された刑事である父の仇をうつ復讐劇。いきなりのシーン。雪の中、主人公の女博徒池玲子は全裸だ。無防備にグラマラスな肢体をさらしながら、襲いかかる男たちを長ドス振るって、返り血浴びながら殺しまくる大立ち回り。その艶っぽい肌に色鮮やかな蝶の刺青。真っ赤な血飛沫と真白な雪。その煽情的な倒錯美は衝撃的だ。これが芸術作ではなく、ポルノ映画であるところがまた凄い。
「十九歳の地図」
(中上健次、柳町光男、本間優二、蟹江敬三)
全編を通して主人公のやり場のない鬱屈や怒りがこれでもかと溢れている。これは結果として作品がそれを強烈に表現しきっているのだが、言葉ではなく映像カットの積み重ねでそれを実現できていることに驚愕する。出来上がりをこうして目にしているのだが、始まりはゼロだ。原作小説はあるが、もとより具体的な映像とするには大変な力が必要だ。凄い監督の力量。こういうシーンをこのようにつなげたら、見ている者にこう伝わる、ということを熟知している。それより叩きつける情熱が先にあったのか、それにしても驚異的である。
「どっこい生きてる」
(今井正、河原崎長十郎、河原崎 しづ江、木村功)
昔は大学祭などでよく上映されていてそのタイトルは耳なじんでいたが、その語感から何か今村昌平的なプリミティブパワーの映画を想像していた。しかしやはり今井正。素晴らしかった。自転車泥棒など、イタリアのネオレアリスモの影響濃いという解説もなるほどと思いはするが、それに関わりなくいい。これは僕の嗜好であるかもしれない。好きな映画なのだ。よかった。観た後、長く尾を引くその観劇感。こういう乾いた風と砂ぼこりがする映画、きちんと残ったらいいのだが。
「聖母観音大菩薩」
(若松孝二、松田暎子、浅野温子、石橋蓮司)
予告編を封切り当時観た記憶がある。やはり若松孝二の映画は何か奇妙な違和感を覚える。何か映画の造りが物語の構成として基本的に異なっているような気がする。うまく言えない。晩年の「キャタピラー」や「実録連合赤軍」はオーソドックスな構造だ。以前のものは何か基礎部分を壊している気がする。確信犯的に。
それにしてもこの映画にも浅野温子が出ている。中学生の役だが、狐に取り憑かれ全裸でコーンコーンと飛び跳ねる。なんだか役者としての腹の据わった感じがとても印象的。「高校大パニック」にしろ、凄い作品に出ている女優だ。スローなブギやあぶデカの一方でこうした背景があるんだ。そう思った。